古いパンのスタンプ
今まで出会った古道具の中で印象深かったもののひとつが
木彫りのパンのスタンプです。
パンのスタンプとはなんぞや、ですが
焼く前にパンに押す印です。
集落で共同のパン焼き釜を使ってパンを焼くという
習慣から生まれた古道具です。
窯の中にはいろいろな家のパンが並べられているわけで、
押すことによって自分の家のパンがわかる、というものです。
そして印を押すという実用性だけではなく
持ち手となる部分が動物であったり、人であったり
像のようになっているところが素敵なのです。
取り扱いのあるものは、修道士と福音書を携えた使徒らしき人。
どちらも顔立ちがなんともいえません。
以前の持ち主が壁に装飾としていたようで、
吊り金具がついています。
黒に近い茶の塗装が施されていますが
道具としては無垢のシナノキのままだそうです。
そもそもが道具なので、像を持ったときの
手に包み込まれるように収まる感じがよいのです。
印のモチーフはひとつはハート型、もうひとつは菱形というもので
こう言った一般的な図柄は庶民のものだそうで
高貴な家のためのパンにはもう少し複雑な図柄が使われるそうです。
実際膨らむパンにどのように残るのかは
残念ながら見たことはありません。
こちらの古道具はフランスに近いイタリアのピエモンテ州のクネオ県界隈の集落から出たものだそうです。
現在でも南イタリアなどでも、共同の窯でパンを焼いているのを
ドキュメンタリー番組で見たことがあります。
自立もするので、お部屋の片すみでひっそり見守ってもらうのもよさそうな古道具です。