時の止まった中世の城【旅の振り返り録】

最終更新: 1月29日



重い腰を上げてようやく始めたネガフィルムのコンタクトシートのデジタル化作業は

懐かしい風景がでてくるとピタリと作業の手が止まる。


旅は2013年まで遡るのだが、思うところあって

アッピア街道の終点が見たくなり、プーリア州に向かった。

終点ブリンディジに行く前に以前から訪れたかったデルモンテ城に行くことにした。

偉大な人物にもかかわらず、その姿は後世にあまり残されていない

フリードリッヒ2世の知と審美眼が詰まった建築物である。


海沿いの街からローカル線に揺られ、バスに乗ってオリーブ林を抜けると

やがて丘を登りはじめてオリーブ林が途切れて雑木林のトンネルをくぐると

八角形を基調にしたこの地方らしい明るい色の石の建物と出会った。

長いこと訪れたかった場所なので口からは思わず感嘆の声が漏れた。


数字と幾何学に信仰がかけ合わさった謎解きのような中世の城。

それゆえの出来事であったのだろうか。

不思議といえる出来事があった。


ガイド付きで一緒に回りませんかという誘いを受けて

イタリア語チームで回ったのが一回目。

ガイドから教わったことを頭に、自分のペースで歩いて写真を撮りながら

また時計回りに八角形を回ったのが二回目。


バスの時間に合わせて城を出て、まだ少し時間があると、城の外の写真を撮っていたら

時間の感覚がいつもと違っていて、ものの数分と思っていたのが

思ったより時間が過ぎていてバスを逃してしまった。

仕方なく次の最終バスまで、またデルモンテ城の中に入って

改めて写真を撮りだした。

また時計回りに八角形を回った。三回目。

次に城を出たときは陽はかなり傾いていた。

最終バスは逃せないと余裕をもっていたものの、

バス停は城から遠くなく、空の色の変わったデルモンテ城を

撮ったり、辺りにうろうろしていた犬たちを撮りながら

腕時計をちらちらと気にしていた。

と、時間の進み方がおかしいことに気づいた。

5分ほど前まで動いていた腕時計のリューズが

何かの加減でひっぱられており、時計の針が止まっていた。

慌ててバス停へ行くと先ほどまでいた最終バスはいなくなっており

駐車場で土産を売っていたシニョーレに聞くと

最終バスは出発したとのことだった。

店じまいしているシニョーレの傍らで呆然と立ち尽くす。


辺りは暗い。そして周りは何もない。

土産物屋のシニョーレが駅方向に行くとは限らない。


すると一台のバスが到着した。

デルモンテ城で働く従業員を乗せるバスであった。

運転手の制服からバス路線が運営しているようであったので

状況を説明すると、こころよく乗せてくれた。

こちらの恐縮度合いとは裏腹で

同僚同士おしゃべししていて、終バスを逃した遠くの旅人を

乗せることくらいなんてことはないという感じだった。


今まで腕時計のリューズが腕につけているときに

勝手に動いたことなどなかった。


せっかく来たのだから心ゆくまで城を見ていったらどうか、

との天の声だったのでは、とに思っている。



広がる平野の写真は古代ローマ時代の第二次ポエニ戦争の会戦で名高いカンナエ。

その奥に湾曲したアドリア海が見える。



お部屋の片隅を楽しくするイタリアの古い物のお店capricciはこちら